最後の言葉
手をつなぐことも無く、飼育員ばかりの水族館の中を歩いていく。
三角に穴の開いた水槽のトンネルを通る。
スッと手を伸ばせば、きらきらと光を反射させている水の中で泳いでいる魚を掴めそうだ。
でも、何十cmという分厚いガラスに拒まれる。
ふっと、そんな事を思い手を伸ばしたけどやっぱり分厚いガラスにより遮られる。
名前の知らない魚、家庭の食卓に並ぶような魚が分厚いガラスのそちら側など気にせず泳いでいく。
「…」
何も音のしないその場所で手を伸ばすあいつは、水中からそのと光へと、外へと、思いを寄せているように見える。
水の模様と光のコントラストの中、あいつの手は、青白く見えた。
いつもは暗い中でも白くきれいな指に見えてたと言うのに。
静かに笑っているあいつは、儚く消えてしまいそうで。
でも、消えてしまうことは事実で。
俺は…
「ごめん、昼食いに行くか」
儚く笑っていたあいつは、困ったように笑いながら言って俺を促した。
「そうだな、この中のレストランでいいか?」
苦笑交じりに行った俺に、あいつはこくんと頭を揺らして答えた。
二人で何も話さず、歩って行く。
水族館の中にあるレストランは、ちらほらとカップルや一人で来たのだろう人がいた。
店員は好きな所へどうぞと営業スマイルを顔へ貼り付けて、手を店内へ向けた。
その手に促されたように入って行き席をどこがいいか考える。
「何処がいい?」
「あー、何処でもいいんだけどお前はどこがいい?」
質問に質問返しをし、あいつは苦笑した。
「ん、じゃ日が当るところがいい」
ガラス張りのそこは何処でも陽が当りそうだが、外は曇天で陽など入ってこず薄暗い。
席に着くと店員が汗をかき始めているグラスを俺たちの前にメニューと一緒に置いていく。
「メニューが決まりましたら、そちらのボタンを押してお呼び下さい。」
営業スマイルのまま席を離れて行く。
あいつは渡されたメニューを真剣に眺めている。
同じように俺もメニューを眺めた。
中のメニューはやはり水族館だからなのだろうか、魚を使った料理が多い。
正直、エグイ気がして来た。
「ハンバーガーとシーザーサラダにする」
一番安くて、量があるものを選ぶのはあいつらしい。
「じゃ、俺も同じのにしよ。飲み物はどうする?」
いいやと呟き返され、そかと答えボタンを押し店員を呼んだ。
「お決まりでしょうか?」
決まったから呼んだんだよと思ったが、間違って押していないかとか色んな確認のためなんだと考え直した。
決めたメニューを頼み、来るまで外を眺めていた。
きれいに掃除されたガラスへタッと水滴が当った。
「雨…」
擦れた声は2つの音を発し、その後は何も発さなかった。
「お待たせいたしました。」
と、頼んだものはすぐさま届いた。
店員が伝票を置き、去っていく。
「ありがとな」
俺は聞こえない振りをした。
「っ!!」
そんな俺の頭の上へ手を乗っけた。
もう、二度と触れない触ってもらえない手へ触りたくて、頭の上は在る手へ恐る恐る手に取った。
「…俺は何もしていない。…俺はずっと…好きなやつと居ただけ…」
俺が握っていない方の手で、あいつは軽く眼もとを撫でた。
あとがき
意味分らない?そう言われても仕方がないと。
何となく乗りで書いたのの続きなんで。
申し訳ありません。
でも、水族館に居て感傷的な話が書きたかった。
美沙様のみ、お持ち帰り、苦情、書きなしを受け付けています。
2010/9/19