ぱふぇ。

   いつものファミレスに入り、いつもと同じように俺はコーヒー、彼女はパフェを頼む。
昼とも夕方とも言えない曖昧な時間帯、周りには学生のグループが楽しそうに騒いでいた。
いつもと同じ、俺と彼女の一日だ。
ただ、少し違うのは。
注文したあとのテーブルに会話がないことと、今日会う約束は無かったということだ。

大学の講義中、何気なく見た携帯に届いていたメール。
『今から逢えない?』
彼女にしては珍しい一行の絵文字も何もないメールに、なんだか悪い予感がしたのも確か。
だが、それよりも俺の心を占めたのは、あぁ、きたか。というのが一番だった。

ここ数ヶ月彼女と会っていない。
付き合って二年。
倦怠期かと思っていたこの数ヶ月の空白は、どうやらそれだけでは済ませてはくれないようだ。
会えない距離でもないのに、会わなかったのがそもそも変であるのはわかっていた。
俺が誘わないからか、彼女からも『逢おう』などというメールは来ず。
なぜかその単語を避けるように、メールは日常の何気ないことをつらつらと報告しあうだけだった。
それでも俺は満足だったし、ずっと逢っていないのに関係が続いていることが・・・俺たちの愛の証であるとさえも思っていた。
そんな俺の考えに、友人からはいつか愛想を尽かされるぞと茶化されてはいたが。

無言のテーブルに、店員の女の子が営業スマイルで頼んだものを置いていった。
あぁ、どうも。と軽くお辞儀をすると、作られた笑顔のなか瞳だけが爛々と輝いていた。
興味津々ということか。
知らないカップルの険悪な空気が気になって仕方ないのだろう。
きっとバックルームに帰ったら仲間とうわさするのだと思うと思わず苦笑が漏れる。
他人の不幸は蜜の味、ってか?
まったくもって笑えない。
自分の目の前に置かれたコーヒーをすすると、ブラックの苦みが舌に染み渡って少し気持ちが和らぐ。
ふと、向かいに座る彼女に目を向けると、運ばれてきたチョコレートパフェをじっと見つめていた。
そのままそっと見つめていると、不意に彼女がこちらを向いた。
バチッと音がしそうなくらいかち合った視線に思わずたじろぐ。
黒目がちなその瞳にはもう決心がかたまっているのが見えた。
そっと視線を彼女の瞳からはずずと、視界の端で彼女の唇がうごく。

「あのね、別れて欲しいの。」

聞きたくないはずなのに、耳は素直に彼女の言葉を俺に伝える。
穏やかに紡ぎ出される言葉がどんどん俺の中に入ってきては、腹の下の方に冷たくたまっていく。
少しずつ、少しずつたまったそれは、俺のすべてを浸食していき、彼女の言葉が聞こえなくなってゆく。
俺はただ、ぼぅっと彼女の目の前のパフェを見つめることしか出来なかった。
一度も手を付けられることのなかったそれは、上に乗せられたバニラアイスが溶け始めていた。
バニラの白とチョコの黒がどろどろと合わさっていく。

「     」

彼女の唇が4つの言葉を形作る。
何も返せない俺をそのままに、彼女は去っていった。
残ったのは奇妙な静けさと、結局一度も手が付けられなかったパフェ。
もう運ばれて来たときのあの芸術的な美しさはなく、溶け合った灰色がカップの底で淀む。

銀のスプーンでカップの底からすくいあげて口に含む。

「あま・・・」
スプーンをコーヒーに突っ込むと灰色は黒に飲み込まれ、



消えた。