指先だらしなく、

しまった、
そう思ったときには既に遅く、あいつは俺に背を向けて歩き始めていた。
あぁ、またやっちまった。
売り言葉に買い言葉。
いつも俺たちはそうだ、もう本音じゃないことぐらいわかっている。
わかってんだろ、お前も。
いつも最後には俺が謝ってへこへこ頭下げて。
お前は満足そうに笑っていうんだ「分かればいいんだよ。」って。
わかんねぇよ。
なんで俺だけ謝って、お前は謝らないんだ。
俺が悪いこともあるが、どう考えてもお前が悪い時だってあるだろ。
なんでだよ。
俺だけなのかよ、仲直りしたいとか、一緒にいたいとか思ってるの。
違う。
そんなことわかってる。
お前が不器用で、自分から謝ったりするのが苦手だってことも、わかってる。
でも、駄目なんだよ。それだけじゃ。
俺には足りない。
だからこうやって今回はお前を追ってない。
今までの俺ならもう既にお前を追って、謝って、一緒に歩いてる時間だ。
こんな時間になっても、お前は戻ってはこない。
さっきからずっと同じところにいるのにな。
やっぱこんなもんなのかな、俺たち。

もう、動く気がしなくて、ぼう、と窓の外を眺める。
男女のカップル、微笑ましい家族たち。
俺たちはあのどれにもなれないんだよな。
堂々と手を繋げばじろじろ見られるかあからさまに目をそらされるか。
居心地わりぃなぁ。
そんなもんか、この世の中。
通り掛かったウエイトレスのおねぇさんにいつも以上に優しく笑ってカフェオレを一つ頼む。
可愛く頬を紅く染めたおねぇさんは奥へとカフェオレをとりに。
すぐに出てきて、かっわいい笑顔で「おまたせ致しました、こちらでよろしいですね。」と言って俺の前にカフェオレとクッキーを幾つか。
ありがと、と微笑むとはにかんで奥に消えていく。
あーやっぱ可愛いな、女の子。
もう、浮気しようかなぁ、あの子と。
ひらひらとあの子に手をふると、小さく振りかえしてきて頬がゆるむ。
ああ、可愛い。

  バンッと大きな音を立てて、誰かが俺のテーブルを叩いた。
あ、お前、帰って来たのか。
なんてのんきに思っているとその顔に一粒の雫。
へ、なに?今のでもしかして嫉妬したの?



「なんで追いかけてこねぇんだよ!迷っただろうが!!」

・・・驚いた。
こいつ、方向音痴だったのか。
手を振ったまま、だらしなく下げていた指をお前へ。


「お前、ばかだろ。」



 そしておれも「ばか」だ。